工学系で使う大学数学とその勉強法
投稿:2024/08/10 更新:2024/09/24
こんにちは! でるてぃーです。
今回から現役の工学部生として、どんなこと勉強してるかを具体的にしたためておくことにしました。
まずは工学系で使う数学についてざっくり紹介したあと、勉強法・試験の切り抜け方をお話しましょう。
目次(見出しにジャンプします)
線形代数学・微分積分学
まず、理系学部で必ずやらないといけない数学の分野が2つあります。この2つとは
線形代数学・微分積分学
です。理学部や工学部、情報学部や医学部といった理系学部の1年生が必修の科目ということですね。
線形代数学
幾何的なベクトルをざっと復習したのち、ベクトルを拡張した概念である「行列」を勉強します。うまいラーメン店やケーキ屋さんの行列ではなく、数を行・列に羅列した概念です。例えばこういうやつ。
$\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 4 \end{pmatrix}$ $\begin{pmatrix} 1 & 0 & -1 \\ 0 & 1 & 2 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}$
行列を習得したら、連立方程式を解いたり、ベクトルの集合である線形空間の考察を行ったりします。難しくて大学生によく嫌われますが、いろんな学術分野の計算を簡単にしてくれる、なくてはならない学問です。
ん?連立方程式って中学の?と思うかもしれませんが、まさに中2の(2元1次の)連立方程式です。しかし3元や4元にもなると計算が面倒なので、行列の考えで解くということになります。
工学部的な応用としては、電気回路の計算を簡単にしてくれたり(クラメルの公式)、量子力学の固有値問題(固有値・固有ベクトル)など、たくさんあります。それだけに必ず1年生で習得してほしいという科目です。
微分積分学
文字通り、微分と積分を用いて関数の解析をする学問です。ただし、高校までの関数は1変数でした($y=f(x)$:$x$の関数)。大学になると$n$変数になります。とはいっても2変数関数の解析がメインですけどね。
微分・積分は、2変数になっただけで高校とは明らかに難しくなります。それまでの$x$微分とは違い、必ず合成関数微分が付きまといます。積分はインテグラルの数が2つに増えます(重積分)。3次元だとさらに3つになりますね。
$\iiint_V f(x,y,z)dxdydz$
工学系分野では、いろんな関数を1次近似するテイラー展開や、無限大の定義域でも積分する広義積分、ある束縛条件下における2変数関数の極値・最大最小(ラグランジュの未定乗数法)などが使われます。
……とにかく新ギミック満載の微分積分学。必修科目につき、落単注意です!(落単:単位を取得できないこと。留年の可能性が高まる)
応用数学
線形代数学・微分積分学を応用した数学の分野を応用数学といいます。
理学部が勉強する数学はとにかく際限がないですが、工学系としての数学はツールである以上、最低限大学で学ぶべき数学は限られています。
とはいっても僕は数検1級を受けているので、工学系数学だけで満足してちゃいけないんですけどね。数学は根底の理論を楽しんでなんぼです。
とりあえず、線形・微積以外のやつは全部応用数学の欄に突っ込みました。僕も正直、どこからが「応用数学」の線引きかはわかってません。
微分方程式
下のようないつもの方程式は代数方程式っていうんですよ。解が具体的数値である方程式を指します。
$x^2+3x-4=0$ $\therefore x=1,-4$
これが、未知関数や微分項が交じってたりすると、解は具体的数値ではなく文字で与えられることになります。こういう方程式を微分方程式といいます。
たとえば下の水平ばね振り子。高校物理でやりますが、ビヨンビヨン単振動しますよね。
質量$m$の小球における運動方程式は次のようになります。
$m\frac{d^2x}{dt^2}=-k(x-x_0)$
これの解は次のような文字で与えられます。ってことは、運動方程式はれっきとした微分方程式です。高校物理は、遠回しに微分方程式を扱っていたということですね。
$x(t)=Asin(\sqrt\frac{k}{m} t+\delta)$
大学ではこのような微分方程式を解くパターンをたくさん勉強します。ホントにパターン暗記です。微分方程式を理解すると、高校物理がもっと楽しくなるほか、複雑な数理モデルを解析することもできます。
工学系の応用としては、反応速度式やRLC回路など数えきれないくらいです。それだけ重要だということです。
確率・統計
確率論+統計学と思ってください。確率のもとで得たデータから、期待値を計算したり事象の分布をまとめたりするのが「確率論」です。そして、膨大なデータ数を発生させる事象の確率を「ほんとに合ってる?」と妥当性を評価するのが「統計学」です。
パッとしないので例をあげましょう。どこかからテキトーなさいころを用意し、意味もなく10,000回くらい投げることを考えましょう。
なんとなく1の目が出る確率は$\frac{1}{6}$に近づく感じはしますよね。ただ実際はほんのちょっと重心がずれてたり、どこか欠けてたりしてるかもしれません。そこで統計学の出番です。
このさいころが「ある水準(有意水準)」でちゃんと平等なのかを「検定」して、$\frac{1}{6}$に限りなく近いことを否定できるかできないかを考察できます。
他にも機械の製造ラインで、不備のあるロットの個数がある水準以下かどうか検定したり、ウイルス陽性・陰性の判定を間違える水準についても検討したり、大学数学ではイチバン日常生活に関わっています。
工学系では、主に統計力学・量子力学との関係が強いです。熱力学はマクロな系を記述しますが、実際はたくさんのミクロな粒子でできているわけですよね。膨大な粒子の統計をとって、熱力学との橋渡しをする「統計力学」は重要な物理学です。
ベクトル解析
いままで関数といえば数値を扱ってきましたが、今度はベクトルの関数を考えます。つまりベクトルを違うベクトルに返すというベクトル値関数です。
微分積分学の知識がないと難しいですが、物理系で特に役に立つツールです。勾配・発散・回転など、ベクトルに関わる新しい定義でいっぱいです。
工学系では特に電磁気学で効果を発揮します。ベクトル解析なしでは、電場・磁場といった場の概念をうまく説明できません。
複素解析
微分積分学の適用範囲を複素数に広めた学問です。複素解析だけでしかみられない美しい公式や事象が盛りだくさんで、複素解析を推す数学徒がいっぱいいるのが特徴。
$e^{i\theta }=cos\theta +isin\theta$
複素(数)平面上で変数変換したり、難しい定積分を留数という考えを用いて無理やり、それでいてエレガントに求める留数積分などがあります。
大学での電気回路・電子回路は、電流・電圧といった変数がすべて複素数になります。ということは交流回路ですね。複素解析は回路網の解析においてなくてはならない存在というわけです。
偏微分方程式
さっき微分方程式を紹介しましたね。「偏」がついてますがどういう意味でしょうね。
これ、「微分積分学」で習いますが、2変数関数$f(x,y)$を微分しようとすると、$x$,$y$どっちで微分する?ってなります。そのとき片方で微分することを偏微分というんですよ。例えば$x$で微分すると$\frac{\partial f(x,y)}{\partial x}$という「偏」導関数が生まれます。
この偏導関数が含まれる方程式を偏微分方程式というわけです。基本的に、偏微分方程式は常人では解けません。いろんな数学者が天才的な発想で思いついた解を応用したり、コンピュータで数値計算してもらうことになります。
工学系の分野だと、波の振動を記述する波動方程式や、量子力学で登場するシュレーディンガー方程式など、これもまたいろんな分野に使われます。
フーリエ解析
主に電気系で使います。交流回路のなかでも解析が簡単なのは、電流・電圧が正弦波のグラフになってる正弦波交流です。
ただし!現実にはいろんな波形の信号があり、必ずしも解析しやすい正弦波ではないものもあります。
そんなとき使えるのがフーリエ解析。どんなカクカクの波形でも、フーリエ級数展開というテクニックにより単純なsin波とcos波の重ね合わせで表現できるんです。
フーリエ解析は複素解析との結びつきが強く、学部生を悩ます分野でもありますね。まあ全部悩むんですけども(笑)。
ラプラス変換
なんか名前がかっこいいですね。主に微分方程式との結びつきが強いです。フーリエ変換の特別な場合です。
微分方程式を解くためには必ず微分・積分のプロセスが伴います。したがって、めっちゃむずい積分とかに出会うと計算は困難です。それを回避する方法として、ラプラス変換という方法があります。
ラプラス変換をして微分方程式を解く際に、微分・積分を使わずして中学生みたいに代数的に解くことができるツールです。
微分方程式の解法パターンとして、確実に覚えておきたい分野です。
どれくらい難しいの?
少なくとも、高校数学をすべて履修していることが前提条件です。数学ⅠAⅡBⅢC全部経験していないと難しいです。大学数学の前段階として受験すべき大学入試が難しいのも頷けますね。
特に重要な分野はベクトル(数C)と微積分(数Ⅲ)です。それぞれ必修科目である「線形代数学」「微分積分学」に対応します。
ちなみに、数検1級は大学レベルですが、数ⅢCを問う準1級とは比べ物にならないほど難しいです。それでも小中高校生で合格してる子がいるわけですから、驚きです。
ちゃんと小学校の算数から、もっと難しい中学数学、更なる厳しさの高校数学を乗り越えた先に大学数学のパノラマがあるわけです。積み重ねの学問だということがわかると思います。
落単しやすい
これだけ難しいと脅しといてなんですが、大体大学生というものは真剣に勉強しません。遊び散らかします。
それでも人並みに勉強する分別のある学生が多いわけですが、期末試験1週間前くらいから勉強するような学生もまた多いです。国公立大であろうと試験3日前から発起してエナジードリンクと生活を共にする人も。
他の科目ならそれでなんとかなることもありますが、数学は一般的に1週間前じゃ間に合いません(講義が単純だったり、過去問で十分対策ができる場合は別ですけどね)。その結果60点(大学で単位が取得できる点数)に届かず単位を落とすというのがよくあります。
落単した科目が線形や微積のような必修科目だと、この単位を取らなければ卒業できません。次の学年でもう一度講義を受けなければいけないということですね。そのコマに別の必修科目が重なると最悪です。留年は必至。
数学好きにはデザートでしかない
どんな科目でもそうですが、数学が好きなら真面目に勉強します。成績の評価方法もだいたい試験一発勝負なので、いい成績をとりやすいです。
しかも、周りは生半可な努力で挑んでギリギリ単位を取れるくらいなので、数学でいい点をとるというのは大きなアドバンテージになるわけです。
数学徒であるという前提なら、大学数学は高得点を狙える科目といえます。そうでなければキツいだけの科目。早いうちに数学の得意な友達を作っておきたいところ。
あとはやっぱり、大学水準の数学を勉強すると、数学が本格的にいろんな現場で役に立っているということを実感できることですね。
多分ですが、高校数学までしか習わなかった人って、結局数学が何のためにあるのかわかんないはずなんですよ。
高校生が「数学ⅠAとか何の役に立つ?いらなくね」って思うのは至極当然のことなんです。文句は言えません。しかしその答えは理系の研究を勉強・体感してやっと分かることになります。
勉強方法
まずは勉強時間の確保
1人暮らしをする大学生は毎日が時間に追われています。それでもタイムマネジメントをして勉強時間をつくっています。そうしないと卒業できませんからね。
僕は近くに国公立大がたまたまあってそこに入ったので、実家通いです。なので勉強に割ける時間がいっぱいあります。それだけに他の大学生に成績で負けたくないところ。
それはいいとして、まずは自分で勉強する習慣をつけることが大事。中学校から言われてきた当たり前のことなんですが、外界にはいろんな誘惑があり、なかなか実践できないんです。でもここはひとつ頑張りたいですね。
参考書を見極めよ!
楽に単位を取りたい/圧倒的な成績を取りたい場合、参考書をうまく使いましょう。正直、高校レベルなら数学に限らずどんな参考書もハズレなしです。しかし!大学レベルの専門書はよく選び間違えてしまうものです。
どの専門書も「入門」とか「わかりやすい」を表紙に謳いますが、めっちゃくちゃに意味不明なことがほとんどです。ちゃんとした知識がなければただの怪文書となります。
入る門を間違えないよう、絶対に人に聞いたりネットで下調べするのが大切です。僕もわかりやすい参考書があったらこのサイトで紹介するつもりです。
注意として、高校レベルの参考書より全般的に値段が高いです。平均1,500円だったのが平均2,500円くらいになります。それだけに参考書選びは重要。あとはブックオフなど古本屋で安く買うのもいいですね。僕の最近の趣味です。
成績優秀な友達を作れ!
実習系の講義や英語の講義だと、よく知らない人とグループを組むことになります。このタイミングこそチャンス。
頭がいい奴が同じグループにいたらLINEなり何なり交換しておきましょう。わからない問題があったり、期末試験直前でどうしようもないときに効果を発揮します。
ただし、親しき仲にも礼儀あり。わからない問題をどかどか送信したりするのはダメです。とくに、期末試験直前は相手も試験を受けるわけですからストレスをかけないように。
過去問などの情報を手に入れろ!
人脈を増やしていくことで、過去問を手に入れることがあります。ここでの過去問とは、大学の定期試験の過去問のことです。
先輩からもらえたり、あるいはやたら顔が広い友達から送ってくれたり。この情報化社会、試験対策に至っては人脈が多いことに越したことはありません。
大学教員が出題する問題の傾向、嗜好などがわかるため、大きなアドバンテージになります。ギリギリでもいいから単位を取りたい人はもちろん、高得点狙いにも。
高校生が大学数学をやるというのは
本業の高校数学にある程度自信があるという条件で、興味がある人は積極的にやったほうがいいです!楽しいよ!
大学教養をちょっとだけ理解すると、大学入試問題の背景がわかったり、とんでもない別解法に気付いたりします。検算の幅もぐっと広がったり、使いこなせば飛び道具になります。僕らの視点で大学入試数学が見えるようになりますよ。
むしろ、難関大をめざすくらいならちょっと背伸びして大学数学を部分部分でいいから理解した方がおもしろいかもしれませんね。
まとめ
工学系で使う大学数学と、大学生向けの勉強方法についてお話ししました。
これからも工学部生の生活を書いていくことにしましたので、乞うご期待。